優しい君に恋をして【完】
私は、右側の手摺。
彼は、左側の手摺。
同じ扉を挟んで、立っている。
俯いて、息を整えていたその人は、
掴まっていた手を離して、
手摺に寄りかかった。
そして、私の方を見たから、目が合った。
そしたら、ペコッと軽く頭を下げて、
優しく笑ってくれた。
笑ったら、小さなかわいい右側だけの八重歯が見えて、
急にかわいくなるから、
胸がキューっと締め付けられるような感覚がした。
私も、ぺこっと頭を下げると、
その人は、もっと目を細めて笑ってくれた。
あぁぁぁ......なんだろうこの気持ち。
胸がドキドキするだけじゃなくて、
キューっと締め付けられるような......
その人は、一度下を向くと、
また顔を上げて、
窓の外を向いてしまった。
その横顔をずっと見ていた。
見ていたいと思った。
ずっと。
この人と、会えない朝なんて、
考えられない。
近づきたい。
知りたい。
私は、手紙の入ったバッグをギュッと抱えた。