優しい君に恋をして【完】
私が降りる駅まであと4つ。
どのタイミングで手紙を渡そうかと、
悩んでいるうちに、
降りる駅まであと3つ。
電車の中で渡したら、
周りの視線が気になって、
彼にも迷惑をかけるんじゃないかと、
考えすぎて、
降りる駅まであと2つ。
もう、どうするんだ!あすか!
ここで渡さなかったら、めっちゃ後悔するぞ!!と、
バッグのファスナーに手をかけて、
降りる駅は、次!!
駅に近づき、電車の速度がゆっくりになると、
その人は、寄りかかるのをやめて、手摺を掴んだ。
今しかない。今.....今渡そう。
バッグのファスナーを開けて、
中に手を入れて、手紙を掴んだ。
その人は、ずっと外を見ていた。
「あの......」
思い切って声をかけた。
でも、気づいてもらえなくて。
「あの」
もう少し大きな声で言っても、
やっぱり気づいてもらえなくて、
その時、電車が止まって扉が開いた。
このまま渡せないなんて......
私は、電車から降りると、
彼の前に立った。
すると、目が合ってさらにドキドキした。
少し首を傾げて見つめられたから。
早く、渡さなくちゃ.....扉が閉まっちゃう。
その時、扉が閉まるサイレンが鳴った。
その瞬間、私はバッグから手を出して、
掴んでいた手紙を彼に差し出した。
「読んで.....ください」
目を合わせていられなくて、
差し出した手紙をじっと見つめた。
すると、ゆっくりと彼の綺麗な長い指が伸びてきて、
そっと手紙を受け取ってくれた。
そして、電車の扉が閉まった。
顔を上げると、手紙を見つめている彼が見えて、
ガタンと電車が動き出したとき、
こっちを向いて、
優しく微笑みながら、軽く頭を下げてくれた。
渡せた......
渡しちゃった......
受け取ってくれた......
舞い上がる気持ちをぐっと抑えて、
スキップなんかしちゃいたい気持ちもぐっと抑えて、
にやけちゃう口元も、
ぐっと抑え.....切れなくて、
ひとりで笑いながら、
ホームを後にした。