優しい君に恋をして【完】
川沿いの道に入ると、
露店がずっと並んでいて、
たくさんの人で賑わっていた。
私には、ただ賑やかだなってぐらいにしか感じないけど、
優にとってはどうなんだろう。
このガヤガヤとした音を意識的に聞くと、
結構うるさいことに気づく。
中学の時から、音のない世界に入って、
それからずっと静かだったのに、
こんなにいきなり騒音の中に入って、
大丈夫なんだろうか......
ちらっちらっと隣から優の顔を見ると、
優は時々、目をぎゅっと閉じている時があって、
心配になって肩を叩いてこっちを向かせた。
「大丈夫?」
優は笑って「大丈夫だよ」と言って、
繋いだ手をぎゅっと握って、また前を向いた。
大丈夫なら、いいんだけど......
しばらく歩いて行くと、
クラスの子の何人かが、しゃがんでヨーヨーつりをしていた。
「あ、遠山さんもやろうよ!」
ひとりの女子が声をかけてくれて、
私が釣っているところを覗き込むと、優はお店の人にお金を払って、
二つの紐を持って、こっちに戻ってきた。
何も言わずに私に紐を一個差し出してきたから、
「いいの?」って聞くと、
小さく頷いた。
そっと受け取り、「ありがとう」と言うと、優は優しく微笑んだ。
二人で紐を持つと、みんなは横に詰めて、
私たちが入る場所を作ってくれた。
優と一緒にそこにしゃがみこむと、
優は紐の先についているフックを眺めた。
すると、優の右側に座っていた森下くんが優に声をかけてきた。
「やったことある?」
優はぱっと森下くんを見て、
首を振った。
「こうやって、ゴムの輪っかに引っ掛けて、
引っ張るんだよ。
そんで、ここが切れたらおしまい。
頑張れよ!俺、今2個目挑戦中」
優は、ゆっくり頷くと、紐を水の中に垂らし、
ゴムの輪っかに引っ掛けて引っ張った。
すると、紫色の水ヨーヨーが釣れた。
「うまいじゃん!
遠山の彼氏が、うまいぞ!やべーよ!抜かされる!」
「マジか!」
「やっべー俺切れたー!!」
「何個?」
「1個も取れてねーし」
「お前、俺らにジュース奢りだからな!」
「マジかよ!何人いんだよ!
1、2、3、4、5、6、......7人もやってんのかよ!」
優はキョロキョロと、周りを見ていた。
「優?今の会話は聞こえた?」
優は私の質問に、笑って首を振った。