優しい君に恋をして【完】
優の耳は、日に日に反応が良くなっていると、
そばですごく感じていた。
また、優がカーディガンを着る頃には、
髪も伸び、機械が髪で隠れて見えなくなった。
発音もまた少し良くなった感じがして、
全く聞こえなくて、
声も出さずに、手話で会話をしていた頃を、
懐かしく思うぐらいになっていた。
12月に入り、
寒い朝、
6番線のホームへ階段を下りていると、
ホームに立っている優が見えた。
.......ブレザー着てる。
初めて見たブレザー姿に、朝からきゅんとしてしまい、
驚かせようと、ちょっと離れたところから下りて、
後ろからそっと近づいた。
「ブレザーかっこいいね」
優の背中に向かって言うと、
優はびっくりしたように、くるっと振り向いて、
私の顔を見ると、かわいい八重歯を見せて目を細めた。
「びっくりさせんなよ」
そう言って、あきれたように私の頭に手を伸ばして、
ポンポンと優しく撫でた。
振り向いた優は、ブレザーの中にカーディガンを着ていて、
伸びた髪は、出会った頃のように、
ふわふわと無造作にはねていて、
前髪が少し目にかかっている優は、
春よりもぐっと大人っぽくなった気がした。
ふと真剣な表情になると、その男らしさにドキッとしてしまう。
笑うと急に幼くなって、そのかわいさにきゅんとしてしまう。
電車に乗って私の前に立つ優の指を、
そっと持ち上げると、
指が少し黒く汚れていた。
じっとその指を見つめていたら、
ぱっと優がその手を離した。
「ごめん、汚いよな......」
優はそう言って、軽く握った自分の指を、
顔に近づけて見つめた。
私はその手をぎゅっと掴むと、
優に首を振った。
「汚くなんかないよ。
頑張っている証拠でしょ?」
掴んだ優の手をそのまま下におろして、
ぎゅっと手を繋いだ。
優はふっと笑うと、
私の手を強く握りしめてくれた。
毎日絵を書いているんだ。
やっぱり美大を受けるのかな......
「美大を受験するの?」