優しい君に恋をして【完】
顔を上げ、優を見つめると、
優はとても切なそうな顔をしていた。
「あはっ.......あはははっ......
大丈夫だよ。
私......大丈夫。
全然、大丈夫だよ......
ほんと、大丈夫だよ......
優は、自分の決めた道を進んで。
私は、応援するから.......
大丈夫だから………」
笑いながら言ったつもりが、
こらえきれずに、唇をぎゅっと噛み締めて、
下を向いた。
また、涙が真下に落ちて、
落ちて
落ちて.......
下を向いていたら、
優が繋いだ手を離して、
その手で私の頭を撫でた。
「わかった。
あすかの気持ちは、よくわかったから.......
まだ、合否が出てないから何とも言えないけど、
とにかく俺.......
頑張るから」
私はまた目をこすって、顔を上げると、
「頑張って......」
そう言って無理に笑った。
優が頷いて、私の頭から手を離した時、
電車がゆっくりとなり、
私の降りる駅に停まった。
電車から降り、車内の優を見つめると、
優は小さく頷いた。
そしてドアが閉まり、ゆっくりと電車が動き出すと、
私の前から優が消えた。
【頑張って】なんて、
本当は思っていない自分の心が、汚いと思った。
優が頑張ると言っているのに、
落ちればいいのに、
落ちれば遠くに行かなくて済むんだから.......なんて、
そんなひどい言葉が浮かんでくる自分が醜くて………
どうしてこんなに自分は勝手なんだろう。
ずっと中学の頃から目指していた大学なんだから、
日本にひとつしかない耳の不自由な生徒のための大学なんだから。
だから、
受かることを祈ってあげなくちゃいけないのに。
どうしてそれが、できないんだろう。
大丈夫だよ、離れたって、
会えなくたって.......
汚い自分の心に何度も言い聞かせて、
真っ黒に汚れた自分勝手な考えを、
打ち消そうとした。