優しい君に恋をして【完】
駅に着くと、バッグを斜めがけして紙袋を持ち、
傘を開かずにそのまま駅の中まで走った。
階段を駆け上って、駅構内を人ごみをかき分けて走って行くと、
中央口改札近くの柱に、
寄りかかって立っている優が見えて、
そのまま走って、優の前に立った。
はぁ、はぁ、はぁ、と息切れしながら、
「おかえり」と笑って言うと、
優は、寄りかかるのをやめて、
私に一歩近づいた。
そして私の前髪に手を伸ばすと、
指先で、そっと優しく触って微笑んだ。
「走ったの?」
私の前髪を直しながら聞いてきた優に、
小さく首を振った。
「雪が降ってきたから、
お母さんに車で送ってもらった」
優は私の前髪から手を離すと、
深緑色のショート丈のダッフルコートのポケットに、
両手を入れた。
「雪?」
「うん。雪降ってるよ?」
優はポケットから手を出して、私の手を繋いだ。
「見に行こうか、雪。
向こうはイルミネーションも綺麗みたいだから、
ちょっと散歩しよう」
イルミネーション……
「うん!」
繋いだ手をぎゅっとして、テンション高く頷いた私を見て、
優は笑いながら、
家のある東口ではなく、
反対の西口の方へと歩き出した。