優しい君に恋をして【完】
優はそっと受け取ると、
「開けてもいい?」と首を傾げた。
「うん」
私が頷くと、まず紙袋の中から、
カップケーキを出した。
「作ったの?」
「うん。お母さんと一緒に作った。
後で、食べてね」
優は透明の袋の中のカップケーキをじっと見て、
「ありがとう」と言うと、
また紙袋の中にしまった。
そして、もう一つ袋を出して、
紙袋を、下のカゴに置くと、
袋の中の物を取り出して、
嬉しそうに笑った。
紺色の毛糸で編んだマフラー
「それね、桜木先生に編み方を教えてもらったの」
「お姉ちゃんに?」
「うん。
もう、ピアノ教室に何しに行ってんだって感じでしょ?
私ね、ピアノやめようと思って」
優はマフラーを持ったまま、首を傾げた。
「どうして?」
「桜木先生、2月でやめちゃうし。
私、別に音大目指しているわけでもないし、
もう、弾く意味もわかんなくて、
やめようと思う」
優は少し俯いて、マフラーを見つめると、
また顔を上げた。
「あすかは、それでいいのか?」
私は少し考えてから、「うん」と頷いた。
「もう全然練習もしてないし、
あまり弾きたいとも思わなくなっちゃったし。
いいの、もう。
ピアノは、やめる」