優しい君に恋をして【完】
え......帰っちゃうの.......
優は立ち上がって、袖を戻すと、
カーディガンとブレザーを着た。
「帰っちゃうの?」
私も立ち上がると、
優はマフラーを巻いた。
「とりあえず今日はもう帰るよ」
優はリュックを背負った。
もう少し一緒にいたかった。
それに、ちゃんと言ってほしかった。
じんわりと目に涙がたまってきてしまって、
ぽたぽたとこぼれ落ちてしまった。
帰り際に泣く女にはなりたくないって思っていたのに、
どうしてもこらえきれなかった。
「あすか?」
優がズボンのポケットに手を入れて、
私の顔を下から覗き込んできた。
「泣くなよ」
そう言ってポケットから手を出して、私の頭をポンポンと、
優しく撫でた。
「だって、本当に言ってほしかった」
目をこすりながらそう言うと、
優は撫でていた手を、私の頭の後ろに回して、
ぐっと自分に引き寄せた。
「ごめん、わかった。
ちゃんと言うから、泣くな」
頭を優しく撫でて、
そっと私の肩を押すと、
真っ直ぐ私を見つめてくれた。
「愛しているよ、あすか。
ずっと俺のそばにいてほしい」
思ってた以上の言葉をもらって、
嬉しすぎて、
手話も嬉しいけど、
やっぱり声で聞くと、
もっと嬉しくて.......
泣いていたはずが、にやにやと笑ってしまった。
「なんだよ、超恥ずかしいんだけど」
優は下を向いて、マフラーで鼻まで顔を隠して、
こっちを見ないで、私の頭に大きな手をのせた。
「明日、学校の帰り俺のうち来な」
「優のうち?」
「もう、限界だよ」
「ん?限界?どう言う意味?」
「いいよ、わかんなくて」
優は私の頭に乗せた手でポンポンとすると、
ズボンのポケットに手を入れて、
部屋から出ていった。