優しい君に恋をして【完】
お父さんの心
優はリビングのお母さんに挨拶をして、
玄関から出た。
後を追うように、私も玄関から出て、
門の外に出ると、
車のライトに照らされて、
そのまぶしさに、思わず目を細めた。
タクシー.......
タクシーは、私達の前に止まり、ライトが消えると、
車内が明るくなって、
後部座席に座っている人が見えて、ハッとした。
「お父さん.......」
黒いコート姿のお父さんが車から降りてきて、
運転手さんがトランクから下ろしてくれた大きな荷物を受け取ると、
お父さんは少し不機嫌そうな顔で私たちの前に立った。
お父さんは、じろっと優を見つめた。
同じぐらいの背丈の二人の横を、
タクシーが通り過ぎていった。
お父さんはじっと優を見つめていた。
「君、名前は?」
お父さんは、低い声で優に聞いた。
「成海優です」
お父さんは少し首を傾げて、
また優を見つめた。
「すみません。僕は耳が不自由なので、
うまく、話せなくて......」
「お父さんによく似ているって言われないか?」