優しい君に恋をして【完】
「あすか.......」
リビングに立っていた二人が、
同時に私を見た。
「どういうこと?優のお母さんが襲われたって.......
お母さん、嘘をついたって.......
どういうこと?」
お母さんは唇を噛み締めて、
俯いてしまった。
「あすか」
スーツ姿のお父さんが、私の前まで来て、
優しく名前を呼んだ。
眼鏡のレンズの奥に見えるお父さんの瞳は、
とても悲しげに見えた。
「お父さんと、彼のお父さんは、
高校の同級生だったんだ」
「えっ......」
お父さんが小さく頷いた。
「成海はいつも学年トップで、そのおかげでお父さんはいつも2位だった。
同級生だけど、同じクラスにはなったことはない。
お父さんは、勝手にライバル視していたけど、
成海はどうかな.......
俺のことなんか覚えてないかもな」
お父さんは一度下を向いて、また私を見た。
「だから......まぁ.......
いろいろと、昔あったんだ。
それは、あすかは知らない方がいい」
「知らない方がいいって、もう聞いちゃったよ。
何があったの?」
ずっと黙っていたお母さんが顔を上げて、
私のそばにきた。
「お母さんはね、高校生の頃.......
成海くん......優くんのお父さんのことが好きだったの」