優しい君に恋をして【完】
お父さん......
「そんな......間違ってるよ、そんなの。
絶対に間違ってるよ!!」
私は、リビングから飛び出して階段を駆け上り、
自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
「間違ってるよ.......」
枕に顔を埋めて、
悲しいのか、ムカつくのか、
よくわからない理由の涙を、
どうにか抑えようとした。
しばらくそのまま枕を抱えていたら、
トントンと、ドアをノックする音がして、
「入るぞ」とお父さんが部屋に入ってきた。
私は目をこすって起き上がり、ベッドに腰掛けた。
まだスーツのままのお父さんが、
ベッドの前にあぐらをかいて座った。
私の部屋にお父さんが入ってくるなんて、
いつぶりだろう......
お父さんが部屋にいることに違和感を感じていたら、
お父さんが優しく微笑んだ。
「あすかは、
好きになった人に、他に好きな人がいる経験をしたことがないか?」
他に……?
「私、優が初恋だから......ないかも」
お父さんは「そうか」と頷いた。
「あすかみたいに、自分が好きになった人が、必ず自分を好きになってくれれば、
そんなに幸せなことはないよな。
でも、どうしても想いが伝わらない、届かないってこともあるんだよ。
どんなにその人が好きでも、自分を見てくれない。
どんなにその人を追いかけても、振り向いてもらえない。
他に好きな人がいる
付き合っている人がいる
それでも、諦めきれない。
この想いをどうしたらいいのかわからない。
お母さんも、お父さんも、
そういう気持ちだったんだ」