優しい君に恋をして【完】
「お父さんも?」
お父さんは、ははっと笑った。
「お父さんは、ずっとお母さんに片思いをしていたんだよ。
図書館でずっと見ていた。
お母さんが違う人を見ていたこともわかっていた。
それでも、諦めきれなかったんだよ。
あすかにも、
想いが伝わらなくても、どうしても諦め切れない気持ちを、
わかってほしい。
人を好きになると、周りが見えなくなってしまうこともあるってことも。
お母さんもきっとそうだったんだ。
でも、もう過去のことだ。
お母さんも相当苦しんだ。
お母さんの気持ちも、わかってあげてほしい」
「お母さんの気持ちって……
お父さんは?
お父さんはそれでいいの?
そんな、違う人と自分を重ねられて、
それでいいの?」
お父さんは、ネクタイを緩めて深いため息をついた。
「お父さんは、そういうお母さんごと、
全部受け入れてでもいいと思うぐらい、
好きだったんだ」
「お父さん......」
「お母さんも、もうちゃんとお父さんを好きになってくれていると思う。
ほとんど仕事で家にいないけどな」
お父さんは下を向いて、
あぐらの上にある自分の手を見つめた。
思うって、ちゃんと確認しようよ。
「お父さん、立って」
私はお父さんの腕を掴んで立ち上がった。
「ん?」
つられて立ち上がったお父さんの腕を引っ張って、
階段を下りた。
そしてリビングに入ると、夕御飯の並んだテーブルに、
頭を抱えて座っているお母さんが見えた。
お母さんの前までお父さんを引っ張っていくと、
お母さんは、腕を膝に下ろした。
「お母さんはさ、お父さんのこと好き?
もう今は、ちゃんとお父さんのことを好き?」