優しい君に恋をして【完】
涙
次の日の放課後。
帰り、優の家に行く約束をしていたけど、
昨日のこともあって、
優の家に行くのが少し怖くなった。
お母さんに、気にしなくてもいいと言われても、
聞いてしまったからには、
なんだかやっぱり、気まずい。
駅から出て、一緒にバス停に並ぼうとした優の手を引っ張った。
優は少し驚いたように、振り返って私の顔を覗き込んだ。
「どうした?」
私は優の手を握り締めたまま、考えこんでしまった。
もう、優のお母さんに普通の顔で会えない......
「優の家、今日は行きたくないな......」
優は私の頭をポンポンと撫でて笑った。
「わかった。じゃあ......コーヒーでも飲みに行くか」
「うん、ごめんね」
優は小さく首を振って私の手を引き、駅ビルの方へと歩き出した。
エスカレーターで3階に行くと、
薄暗い落ち着いたカフェに入り、コーヒーを二つ買って、
駅構内が見下ろせる窓際のカウンターに二人並んで座った。
私は気にならないけど、よく耳を澄ませると、
店内がガヤガヤしていることに気づく。
並んで座ってしまったけど、大丈夫かな......
優の顔を覗き込むと、優は「ん?」とこっちを向いた。
「口の動き見える?」
優は目を細めて「大丈夫だよ」と笑って、
また前を向いて、駅構内を行き交う人たちを見下ろしていた。
「俺、もう自由登校だから、あまり学校に行かないから」
優は前を向いたまま話し始めた。
「そっか......」
もう卒業だから.....
優の制服姿も、見れなくなるんだ。
ふと、出会った時のことを思い出した。
通学電車で出会ったあの日。
もう、一緒に学校に行くことも帰ることもなくなる。
優は4月から、大学生になるんだ。