優しい君に恋をして【完】
駅に隣接した駐輪場に着き、腕時計を見ると、
本気でやばい事に気がついた。
急がなくっちゃ……!!
駅に向かう人たちを追い抜きながら、
駅へと走った。
駅ビルも併設されている大きな駅。
階段を上り、改札を通ると、
6番線のホームに下りる階段へ走った。
階段に着くと、
もう電車が着いたのか、電車から降りたたくさんの人たちが、階段を上ってきていた。
やばい!電車待ってよー!
階段を上ってくる人たちの波に逆らって、
勢いよく階段を駆け下りた。
もう、電車の扉が……
そう思った時、
扉の近くに立っていた背の高い男の人が、
体半分を、ホームに出した。
そのおかげで、電車に飛び乗る事ができ、
男の人がまた体を電車に戻すと、
扉が閉まった。
扉のすぐそばの手摺に掴まると、ガタンと電車が動き出した。
乗れて良かった……これで間に合う……
この人が、体を半分出してくれたからだ……
下を向いて息を整えながら、その人の足元を見た。
黒いローファー、濃いグレーのズボン、紺色のカーディガン、緩めたネクタイ
下からゆっくりと顔に向かって眺めていくと、
その人は扉からすぐの手摺に寄りかかって、
下を向いていた。
栗色の柔らかそうな髪は、
ふわふわっと無造作にはねていて、
カーディガンのせいか、
とても線の細い人だと思った。
お礼を言った方がいいのかな……
でも、私のためにやったわけではないのかも……
でも、私のためだったら.……
学校のある駅まで、あと4つ。
もし、私のためにしてくれたのに、お礼を言わなかったら、降りるまでの約20分間、めっちゃ気まずい。
よし、お礼を言おう。
「あの……私のためじゃないかもしれないんですけど……
あの……ありがとうございました」