優しい君に恋をして【完】
お母さんは目を潤ませて、そっと私の髪から手を離した。
その時、優が戻ってきて、
ハンカチで目を押さえているお母さんを見て、
「どうした?」と首を傾げた。
「なんでもないの。
あら、お父さんは?
じゃあね、あすかちゃんまた後でね」
お母さんは、くるっと向きを変えて、
他の人に挨拶しながら歩いて行ってしまった。
優しいお母さんなんだな......
本当に優しい……
きっとすごく辛かったと思うのに、
お母さんを許してくれて、
私にありがとうって言ってくれて……
ありがとうって言いたいのは、私の方だよ。
優を生んでくれてありがとう……
お母さんの後ろ姿を見ながらそう思った。
式が始まり、部屋から出て屋上庭園のチャペルに向かうと、
まるで王子様のような優のお兄さんが立っていた。
「成海くん、かっこよすぎるな」
隣にいた星野先生のつぶやきに、まわりの人達も頷いていた。
パイプオルガンの音と共に、教会の扉が開き、
桜木先生がお父さんと一緒に歩いてきた。
「桜木先生、超綺麗......」
まぶしいぐらい輝いて見えて、
優のお兄さんと並ぶと、
本当にお似合いで、幸せそうで......
なぜか涙がポロポロとこぼれてきてしまった。
素敵すぎる.......
私はハンカチを取り出して、涙を拭った。
式が終わり、屋上庭園に出ると、優が隣にきて、
私の頭を撫でた。
「なんで泣いてんの?」
「なんでだろう......わかんない」
優は、ふっと笑って、
「ほら」と、私の手を掴んで、
その手の中に花びらを乗せた。
そして二人がチャペルから出てきて、一緒に花びらを上に投げると、
ひらひらと青空の中に色とりどりの花びらたちが舞って、
その花びらの中、二人幸せそうに笑っていて、
私まで幸せな気持ちになった。
「あすかちゃん」
桜木先生に呼ばれて、ふわふわの白いドレスを着た先生に近づいた。
「はい、あすかちゃんにあげる」
先生は真っ白なバラのブーケを差し出してきた。
「えっ、私?」
「うん。だっていつか妹になるんでしょ?」
妹って.......
「受け取ってほしいな、あすかちゃんに」
私はそっとブーケを持った。
「ありがとう、先生」