優しい君に恋をして【完】
駐車場の中を少し歩くと、
優が大きな黒いワゴン車に近づいた。
ピピっという音と共にハザードが光るのを、
じっと見ていたら、
優が後ろのドアを開けて、私の荷物を乗せた。
この車.......
「乗りな」
優は運転席を開けて車に乗り込んだ。
う、うそっ.......優が運転.......
嬉しすぎる!!!
私はちょっと走って車に近付いて、
ドキドキしながら助手席に座った。
「車???いいの???」
優はジャケットを脱いで、後部座席にぽいっと投げた。
「式始まる前に、父さんから鍵預かって。
みんなでお酒飲んでタクシーで帰るから、車頼むって。
だから、大丈夫だよ」
優はワイシャツの袖を捲って、ネクタイを緩めた。
その仕草にきゅんとしていたら、
エンジンをかけて、ハンドルを持った。
ハンドルを持つ腕に、いつもの腕時計とミサンガが見えて、
またきゅんきゅんとしていたら、
くるくると、ハンドルを回して、
車が動き出した。
地下の駐車場を出ると、空は夕焼けで少し眩しかった。
行きたいところってどこだろう......
そう思いながら、優の運転姿を、
助手席から、ずっと眺めていた。
眺めていたかったずっと。
ハンドルを持つ腕も、
真剣な眼差しも、
なんだか大人っぽくて、
すごくかっこよかったから.......