優しい君に恋をして【完】
小さな二人掛けのローソファーに優が座ったから、
隣に私も座ってお茶を飲んだ。
「大学はどう?」
「なんとかやってるよ。
友達が、すごい助けてくれて、
本当にありがたいなって思ってる。
この大学に入ってよかったよ。
俺は周りに恵まれている」
「そっか......よかった」
私は優の顔を覗き込んで笑った。
「そういえば、お姉ちゃん妊娠したって」
「えっ、妊娠?ほんとに???」
「うん、来年の3月ごろ生まれるらしいよ」
「そっか......先生ママになるんだ.......
楽しみだね」
優はお茶を飲み干すと、コップを持って立ち上がった。
「あすかは?ピアノ続けてるんだろ?」
「うん。でもさ、
新しい先生、超厳しくて、やっぱ桜木先生がよかったよ」
優はまた戻ってきて、ドサッと隣に座ってきた。
「お姉ちゃん、あすかに甘いからな......」
「でも、続けるって決めたんだから私頑張るよ」
優は私の頭を「えらいえらい」と撫でた。
「もう、バカにしてるでしょ!」
「あはははっ、してないって」
「絶対にしてる!もう!」
ぷくっと頬をふくらませて拗ねると、
その頬を優が両手で包み込んだ。
「頑張ってくれて嬉しいよ」
そう言って、ちょっと斜めに覗き込まれた。
その角度で見つめられると、いつもドキっとしてしまう。
「ずるいよ、優は」
「ん?」
「こんな、ドキドキさせて......」
「俺?」
「そうだよ、ほんとずるい!」
頬を触られながらまた拗ねると、
優が頬から首の後ろに手をすべらせた。
「どっちがだよ、バカだな......」
そう言って伏せ目がちの優の顔が近づいてきて、
ゆっくりと瞼を閉じると、
膝に冷たさを感じて、
「冷たっ!!」と、思わず叫んだ。
優はちょっと眉間にしわをよせながら、
私から離れた。
「こぼしちゃいました......」
すっかりコップを持っていたことを忘れて、
制服のスカートにお茶をこぼしてしまった。
優は、ぶっと噴き出して笑って立ち上がり、
洗面所からタオルを持ってきてスカートを拭いてくれた。
「ごめんね」
「冷たくないか?」
「つ、冷たい」
「脱ぐか?」
「えっ!」
「変な意味じゃないって、乾かすんだよ」
あぁ......私バカだ......
きっと真っ赤になっている私の顔を見て、
優が八重歯を見せて爆笑した。
そんな他愛もないことで、
二人で笑って、
なんか、幸せだなって思った。
私たち、こうしてずっと一緒にいられたらいいなって、
ずっとこうして、一緒に笑っていられたら.......
「ほら、俺のスウェット履いとけ」
「嫌だよー!おっきいし、お代官様みたいになっちゃうよ」
「なんだよ、お代官様って。
気にすんな、履け。
ほら、ドライヤー持ってきたから」
「うぅ......」