優しい君に恋をして【完】
「どうしたの?」
母さんが突然帰ってきた俺に驚いていた。
「いや、婚姻届をこれから書くんだけど、
実印がないことに気づいて......
どこにある?」
「実印?それならあの戸棚の引き出しの奥にあるわよ」
「ありがとう」
俺は急いで戸棚の引き出しを開けた。
実印実印........あ、あった。
ん?この箱なんだ?
箱の中を開けると、
はがきサイズぐらいのファイルが入っていた。
中を見ると、幼稚園の頃の俺の写真だった。
ぺらぺらとめくってもめくっても、
全部同じ女の子と映っている。
そうだ、俺この女の子が初恋だったんだ。
優しくて、いつもそばにいてくれて守ってくれて.......
あれ、
ぺらぺらとめくった写真の最後の写真が、
二人のアップの写真で、
その女の子の名札がはっきりと映っていて、
その名前を見て、思わずぐっと写真に顔を近づけた。
【とおやま あすか】
えっ........まさか........
俺はもう一度写真を最初から見ようと、
ファイルをペラペラと戻したら、
箱をガシャンと落として中身をばらまいてしまった。
床に広がった、たくさんの折り紙たち。
一枚一枚広げてみると、それは手紙だった。
その、かわいらしい文字を読んで、思わず天井を見上げた。
やばい、今ちょっと泣きそうになった。
俺はぜんぶまた箱に入れると、
引き出しの奥から実印を取り出して、
箱と一緒に持って、玄関を飛び出し、車に乗り込んだ。