優しい君に恋をして【完】
駐輪場に着いた時、
少し、雨が強くなってきた。
あ......やっぱ傘は持ってくればよかった。
少し後悔しながら、バッグを頭に乗せて、
駅まで走った。
少し濡れてしまった体とバッグを、
ハンカチで拭きながら、駅構内を走り、改札を通った。
まだ5分の電車まで時間はあるけど、
もう優がホームにいるとは限らないけど、
急いで6番線に下りる階段を駆け下りた。
そして階段の途中でピタリと立ち止まった。
優が、階段を見上げてホームに立っていたから......
私は雨と走ったせいで、くしゃくしゃになってしまった前髪を指で直してから、
ゆっくりと階段を下りて、
優の前に立った。
「おはよう......」
優を見上げてそう言うと、
優は、少し切なそうに首を傾げた。
そして背中のリュックを前に持ってきて、
中からタオルを取り出した。
またリュックを背中に回すと、一歩私に近づいて、
ふわっと私の頭にタオルをかけた。
わっ.......
タオルを頭にかけられ、
私の顔の横に、紺色のタオルが垂れ下がってきて、
ふんわりと、柔軟剤の良い香りがした。
タオルから優を見上げると、
優の手が伸びてきて、
私の頭をポンポンと優しく撫でくれた。
そしてまた、小さな八重歯を見せてかわいく笑うから、
ドキドキしてしまって......
目を合わせていられなくなってしまって、
私は、顔の横のタオルで、自分の顔を隠した。
そしたら、タオルの柔軟剤の優しい香りを、
もっと強く感じてしまって、
これが優のタオルなんだって思ったら、
もっとドキドキしてしまった。