優しい君に恋をして【完】
あれ。声が小さかったかな……
「あの、ありがとうござ……」
もう少し大きめの声で言いかけた時、その人は、少し屈んで、私の足元に手を伸ばした。
「ちょっ……何……」
私が少し下がると、
その人は、私の足元から小さなぬいぐるみを拾い上げた。
あれ、そのクマのぬいぐるみ……
私のバッグについているキーホルダーのクマと同じ……
そう思って、自分のバッグを見ると、
金具だけしかついていなかった。
「あっ、取れちゃった……」
私が金具をつまむと、
その人は、クマを持ったまま一歩私に近づいてきた。
そして、何も言わずに金具をつまむから、
私は金具から手を離した。
その人は、クマについているフックを、金具に取り付けて、
キーホルダーを直してくれた。
電車といい、キーホルダーといい……
なんて良い人なんだ……
私は目の前に立ったその人を見上げた。
すると、さっきまで下を向いていて見えなかった顔がよく見えて、
少し驚いた。
なんて綺麗な顔の人なんだろう……
男の人にそんな事を思うのは、おかしいのはわかっているけど、
見た瞬間、素直にそう思った。
ふわふわっとした栗色の前髪
その隙間から、大きな瞳が見えて。
パッとその人と目が合った。
「あ、ありがとうございました……」
私がお礼を言うと、
軽く頷いて、
目を細めて優しく笑ってくれた。
笑ったら、右側だけの八重歯が見えて、
その笑顔に、
ドキッとした。
ドキッとしたら、そのまま胸の鼓動がどんどん早くなって、
頬から湯気が出ちゃうんじゃないかって思うぐらい、
顔が一気に熱くなってしまった。