優しい君に恋をして【完】
その人はまた下がって、
手摺に寄り掛かって、窓の外に目を向けた。
綺麗な横顔……
どこの高校の制服かな……
制服を見てもわからないし、
スクールバッグじゃなくて、
黒いリュックだし……
じろじろと見つめても、
何も手掛かりがなかった。
素敵な人だな……
優しいし、かっこいいし。
もっと見つめていたいと思う時に限って、
時間が経つのは早くて。
あっという間に降りる駅に着いてしまった。
開いた扉から降りて、
少し歩いたところで振り向き、電車を見た。
手摺に寄り掛かったままのその人は、
こっちを向いていて、
私はもう一度お礼のつもりで、
頭をぐっと下げた。
扉が閉まる音がして、
顔を上げると、
その人はまた、
かわいい八重歯を見せて、
笑ってくれた。
自分と同じ制服を着ている人たちが、私を通り過ぎて行く中、
私は立ち止まったまま動けなくなってしまった。
そして、その人を乗せた電車が、
私からゆっくりとその人を連れ去って行った。
どこの駅で降りるんだろう……
また、会えたらいいな……
さっきまですぐそこにいたのに、
ぱっといなくなってしまったことにさみしさを感じながら、
ゆっくりと向きを変えて、
ホームを後にした。