優しい君に恋をして【完】
「優?」
優の背中に向かって名前を呼んだ。
でも優は、振り向かない。
あ、そうだ。声が小さかったのかも。
そうだ、きっとそうだ。
もう少し、大きな声で......
「優......優!
......優?」
どうして......
こんなに大きな声なのに、
どうして振り向いてくれないんだろう......
「優?
こっち向いて......優......
私は、ここにいるよ......優。
優.......優!
優ーーーーーーーー!!!!!!!」
どんなに大声で名前を叫んでも、
優は振り向かなかった。
そういえば昨日もそうだった。
気づかなかったって......
まさか......優は......
私は、優の背中に近づいて、
トントンと、優しく肩を叩いた。
すると、優はくるっと振り向いて驚いていた。
本当に気づいていなかったんだ......
私は、優の顔を見つめた。
「会いたかった」
あ......私の口の動きを見ている......
優は私の言葉に小さく頷いた。
そして私は次の言葉を、
声を出さずに、口だけを動かして言った。
......てをつなぎたい......
すると優は、
私に手を伸ばしてきて、
ぎゅっと手を繋いできた。
繋がれた手から、優のぬくもりが伝わってきて、
涙がこぼれ落ちた。
優は、
優は......
耳が聴こえないんだ......