優しい君に恋をして【完】
先生は、それからもずっと優を絶賛していた。
自分の好きになった人を、褒められるって、
ちょっと嬉しいものなんだなって、初めて知った。
「やっぱ、優の耳は聴こえないんでしょ?」
落ち着いてきた先生にそう聞くと、
先生は、「うん」と頷いた。
頷いた先生を見て、これは揺るぎない事実なんだと思った。
だからと言って、自分の気持ちはなにも変わらなかった。
もう、私の中では優の耳が聴こえないことを受け止めるよりも、
どうやって優と気持ちを伝え合っていこうかと、
もう、先のことに気持ちがいっていた。
「優は、喋れないの?手話?」
先生は、少し考えていた。
そして、ゆっくりと優のことを語りだした。
「優くんはね、生まれつき耳が聴こえなくて。
小さい頃に手術をして。
機械をつければ、だいぶ聴こえるようになったの。
だからね、ろう学校じゃなくて、
普通小学校に通ったんだけど。
発音とか、機械とかをバカにされて、
とても辛い思いをしたみたいで......
中学校からろう学校に入学して、
そこで、仲間を作って。
そしたら、音なんていらないのよ。
手話で会話できるんだから。
だから、機械をつけなくなっちゃったの。
もう、手話の世界に入ってしまったんだって、
旦那さんが言ってた。
本当はとても上手に話せるのよ。
でも、機械をはずしてしまってからもう期間が長いから、
だんだん発音が崩れてきてしまったみたいで。
それでも、本当に上手に話せる方だと思う。
でもね、
身内以外の人には、絶対に声を出さないの。
自分の発音に自信がなかったり、
聞き返されるのが怖かったり、
小学校のことがトラウマになっていたり......
それに、外では身内ともあまり話さないの。
自分が話すことで、相手も白い目で見られて、
迷惑をかけると思っているみたいで。
いろんな思いがあって、優くんは喋らなくなってしまったんだと思う」