優しい君に恋をして【完】




先生は、それからもずっと優を絶賛していた。



自分の好きになった人を、褒められるって、


ちょっと嬉しいものなんだなって、初めて知った。




「やっぱ、優の耳は聴こえないんでしょ?」




落ち着いてきた先生にそう聞くと、

先生は、「うん」と頷いた。


頷いた先生を見て、これは揺るぎない事実なんだと思った。


だからと言って、自分の気持ちはなにも変わらなかった。




もう、私の中では優の耳が聴こえないことを受け止めるよりも、


どうやって優と気持ちを伝え合っていこうかと、


もう、先のことに気持ちがいっていた。



「優は、喋れないの?手話?」



先生は、少し考えていた。





そして、ゆっくりと優のことを語りだした。




「優くんはね、生まれつき耳が聴こえなくて。


小さい頃に手術をして。


機械をつければ、だいぶ聴こえるようになったの。



だからね、ろう学校じゃなくて、


普通小学校に通ったんだけど。


発音とか、機械とかをバカにされて、


とても辛い思いをしたみたいで......



中学校からろう学校に入学して、

そこで、仲間を作って。


そしたら、音なんていらないのよ。

手話で会話できるんだから。


だから、機械をつけなくなっちゃったの。




もう、手話の世界に入ってしまったんだって、


旦那さんが言ってた。




本当はとても上手に話せるのよ。


でも、機械をはずしてしまってからもう期間が長いから、

だんだん発音が崩れてきてしまったみたいで。


それでも、本当に上手に話せる方だと思う。



でもね、



身内以外の人には、絶対に声を出さないの。



自分の発音に自信がなかったり、

聞き返されるのが怖かったり、

小学校のことがトラウマになっていたり......


それに、外では身内ともあまり話さないの。


自分が話すことで、相手も白い目で見られて、

迷惑をかけると思っているみたいで。


いろんな思いがあって、優くんは喋らなくなってしまったんだと思う」















< 66 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop