優しい君に恋をして【完】
「先生ってさ、手話できたよね」
先生は、机の上の書類を持ってトントンと揃えた。
「何?急に。できるよ手話。
どうしたの?学校で手話でもやるの?」
先生は、書類を封筒に入れて引き出しにしまい、
真剣に話を聞こうとしてくれた。
「好きな人ができてね。
その人、耳が聴こえないから私......
手話を覚えたくて。
先生に教えて欲しいんだ」
先生はからかうことなく、
真剣な表情で聞いてくれた。
「自分の気持ちを、手話で伝えたい」
先生は小さく何度が頷いて、
それから引き出しを開けて、一枚紙を取り出した。
「ここに、伝えたい言葉を書いてみな。
とりあえず、伝えたい言葉の手話を覚えて、
それが彼に伝わってから、
基本の手話を覚えていけばいいと思うよ」
先生は、私の前に紙を置き、
鉛筆を差し出してきた。
私はそっと受け取ると、
優に伝えたい言葉を考えた。
伝いたい言葉......
「先生」
「ん?」
「伝えたい言葉がたくさんありすぎて。
私、覚えられるかな......」
先生は、ぷっと噴き出して笑った。
「伝えたいって思うなら、きっと覚えられるよ。
まぁ、しばらく毎日ここに通いなさい。
教えてあげるから。
遠山さんの思いが彼に伝わるように、
先生も協力するよ。
ほら、とりあえず書いてごらん」
先生......
「ありがとう......先生」
私は紙に、優に伝えたい言葉を、
片っ端から書き綴っていった。