優しい君に恋をして【完】
家に帰ってきてからも、
部屋で何回も繰り返し練習した。
家でも練習できるように、
メモを取ってきたから、
それを見ながら、鏡の前で指を動かした。
伝わるといいな......
でも、優に手話で伝えるということは、
私は優の耳のことを知っていると伝えているのと同じで、
そのことで、優が傷ついたらどうしようかと思った。
いつから知ってたのかとか、
ずっと気づかないふりをしていたのかとか、
優は、気にするかもしれない......
次の日の朝、
いつものように6番線のホームに行くと、
優が立っていた。
ぽんと背中のリュックを両手で叩くと、
驚いたように振り向いた。
「おはよう」
優に向かってそう言うと、優は笑って小さく頷いた。
やっぱり声は出してくれないよね......
待っていればいつか声を出してくれる、
待っていればいつか話してくれるって、
そんな簡単な問題じゃないんだ。
優の心の傷は、私の想像以上にきっと深い......
そんな気がした。