優しい君に恋をして【完】
朝と帰りは、いつも一緒に帰り、
バス停で優を見送った。
その後、
ピアノがある時は、ピアノに行き、
その他の日は、中学校へ行って、
星野先生に手話を習った。
優はそれからもずっと、
声を出すことはなかった。
毎日練習したおかげで、
優に伝えたい言葉は、
ほとんど完璧に手話でできるようになっていた。
でも、
タイミングがわからないというか、
正直、
伝える勇気がなかった。
優を傷つけてしまうんじゃないか、
伝えたら、
何かが変わってしまうんじゃないか、
それが、怖かった。
優は出会ってからずっと.....
ずっと優しい。
優しくされると、
可愛い笑顔を見ると、
ずっとこのままでいいんじゃないかって、
やっぱり優から話してくれるのを、
ずっとずっと、
待ったほうがいいんじゃないかって、
思ってしまう。
手を繋いでくれるのなら、
目が合うと優しく笑ってくれるのなら、
もう、それだけで幸せだと、
思ってしまう。
でもだめだよ。優の気持ちは?
そう思うとまた、
最初の気持ちに戻る。
優は、私といて楽しいだろうか......
何か、私に言いたいことはないんだろうか......
いつも私に優しくて、
いつも笑いかけてくれて......
優は、私といて幸せだろうか......
優と出会ってから、約1ヶ月。
一歩を踏み出したい気持ちと、
この場所にとどまりたい気持ちで、
私の心は揺れていた。