優しい君に恋をして【完】
5月も半ばを過ぎた。
私は星野先生のおかげで、
だいぶ手話ができるようになっていた。
ピアノとは関係ないと思うけど、
星野先生は、
私がピアノをやっているから手話を覚えるのが早いと、
よくわからないほめ方をした。
優とは、相変わらず毎日のように、
朝一緒に電車に乗り、
帰りはホームで待ち合わせをして一緒に帰っていた。
メールはたくさんするようになったけど、
一緒にいる時は、何も話さなかった。
ある日の放課後、
いつものように、学校から駅へと歩き、
帰りのホームに向かうと、
優が、白石くんと向き合って立っているのが見えた。
白石くんは私の方に背中を向けていて、
優は私の方を向いていたから目が合った。
私は思わずそこからダッシュをして、
白石くんの前に立ちはだかった。
「何してんの?優に何を言ったの?」
私は白石くんを睨みつけた。
「あ......誤解だよ。何も言ってない」
私は振り向いて、優の顔を見た。
優は俯いてしまっていた。
私はまた白石くんの方を見た。
「優を傷つけるようなこと言ってないよね」
白石くんは頷いて、
「言ってないよ」と答えた。
「優と関わらないで。そっとしておいてあげてよ」
「どうして?」
「どうしてって......優にはいろんな思いがあるから。
白石くんにはわからないよ、優の気持ちは」
「そっか......」
白石くんは、そう言ってふっと笑った。
「わかった。ごめん。
じゃあ......俺、あっち行くな」
白石くんは、優に少し頭を下げると、
ホームの端へと歩いていった。