優しい君に恋をして【完】
空っぽのバスに乗り込み、
なんとなく一番うしろに座った。
バスはしばらく、その場に停車していた。
そして、時間が来るとドアが閉まり、
ゆっくりと駅前ロータリーを回り始めた。
たったひとりの乗客。
窓の外を眺めながら、優に会ったら伝える言葉を考えていた。
でも、うまく言葉がまとまらなかった。
手話で何度も練習した言葉たち。
紙いっぱいに書いたはずなのに、
まだまだ伝えたい言葉が増えてしまって、
習った手話では伝えきれなくて......
この想いをどうやって伝えたらいいか、
悩んだ。
長い文でも口を読めるものだろうか......
紙に書く?
携帯で文字を打つ?
その前に、会ってくれる......?
さっきから私の頭の中は、
いろんな言葉が湧き出てきて騒がしい。
出てきては、かき消し、
また出てきては、かき消し。
また、振り出しに戻る。
落ち着け......あすか。
とにかく、せっかく習った手話で、
伝えられるだけの気持ちを伝えよう。
【次は○○立聴覚特別支援学校前】
あ、次だ。
ボタンを押して気がついた。
手が、震えている......
私は、両手を握り締め、
バスが止まると、
運転席横の出口まで急いだ。