優しい君に恋をして【完】
桜木先生に促されて、
小さな防音室に入った。
窮屈そうに大きなグランドピアノが置いてあって、
私はバッグから楽譜を出して、
ピアノの椅子に座った。
隣に桜木先生が座ってきたから、
「先生、結婚するの?」と、
弾き始める前に、ワクワクしながら先生に聞いてみた。
すると、先生は小さな顔を真っ赤にした。
私よりも背が小さくて華奢な、可愛らしい先生。
こんなに可愛い先生は、どんな人と結婚するんだろう......
「あ......うん。そうなの。
だから、来年の3月いっぱいで退職するから......
ごめんね、あすかちゃん。
引き継ぎはちゃんとするからね」
「私、桜木先生じゃないと続けたくないから、
私も、3月でやめようと思う」
桜木先生は、少し悲しそうな顔をした。
「そんな......もったいないよ。
せっかく上手なのに」
「だって、別に音大目指しているわけでもないし。
もう、ここまで弾けたらいいかな......って思う」
「私は、続けてほしいな......」
先生は、私の膝から楽譜を取って、
譜面台に置き、ページをめくった。
「ね、先生の旦那さんってどんな人?」