優しい君に恋をして【完】



桜木先生に促されて、

小さな防音室に入った。



窮屈そうに大きなグランドピアノが置いてあって、


私はバッグから楽譜を出して、


ピアノの椅子に座った。



隣に桜木先生が座ってきたから、



「先生、結婚するの?」と、

弾き始める前に、ワクワクしながら先生に聞いてみた。



すると、先生は小さな顔を真っ赤にした。


私よりも背が小さくて華奢な、可愛らしい先生。



こんなに可愛い先生は、どんな人と結婚するんだろう......



「あ......うん。そうなの。

だから、来年の3月いっぱいで退職するから......



ごめんね、あすかちゃん。


引き継ぎはちゃんとするからね」




「私、桜木先生じゃないと続けたくないから、



私も、3月でやめようと思う」





桜木先生は、少し悲しそうな顔をした。




「そんな......もったいないよ。


せっかく上手なのに」





「だって、別に音大目指しているわけでもないし。


もう、ここまで弾けたらいいかな......って思う」



「私は、続けてほしいな......」



先生は、私の膝から楽譜を取って、


譜面台に置き、ページをめくった。




「ね、先生の旦那さんってどんな人?」















< 9 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop