優しい君に恋をして【完】
指先
バスから降りて、
駅のホームへと手を繋いで歩いた。
ふとその時、気づいた。
手を繋いでいると、手話がやりにくい。
片手でできるものもあるけど......
話しかけたいけど、手も繋いでいたい。
ホームで電車を待っている時、
手を繋いだまま、優の前に立った。
向き合って、顔を見つめ合って話すのが、
優との会話。
それが、私は嬉しい......
「手を繋いでいると、手話が難しいね」
私がゆっくりそう言うと、優は口元をじっと見て、
手を離そうとした。
だから私は首を振って、優の手をぎゅっと強く握った。
そしたら、優は前髪で少し隠れた大きな瞳を細めて、
優しく笑った。
《口を 読むよ》
優は、片手で手話をした。
優の手話は、綺麗だ。
ずっと使っているから、当たり前なんだろうけど、
動きだけじゃなくて、
指が長くて綺麗だから、さらにそう感じるのかもしれない。
繋がれた指
手話をする指
長めの前髪を、
下を向いて、指先で分ける仕草
駅のホーム
下を向いた優の柔らかそうな髪が、日差しに照らされて、
いつもよりもっと、茶色に輝いた。