お隣さん
心もとない灯りのうえに入居三日目だが、玄関の位置ぐらいは把握している。
半分手探りで玄関までたどり着き、扉に手をーー
「……え」
扉がーーない。
扉があるはずの場所が、不自然に壁になっている……。
「なん、で……。ど、どうなってるのよ!!なんなのよ!!」
玄関扉はここで間違いないはずだ。はずなのに、扉はどこにも見当たらない。
「あ……そ、そうだ!ベランダ!」
ここは二階で、飛び降りることは無理でもベランダで大声を出せば誰か気づいてくれるかもしれない。
ちょうどベランダ側の向かいに住んでいる管理人の鈴木さんに声が届けば扉を開けてくれるかも……!
藁にも縋る思いで、さっきの部屋へと駆け戻る。
シャッと音を立てながら、勢いよくカーテンを開けたーー
「きゃあああああぁぁああ!!」
ベランダの窓には、景色が見えないほどおびただしい数の手形があった。
赤い、手形が……。
しかも……今こうしている間にもベタベタと手形は増えていく。
飛び退き尻餅をついた状態で、恐々と窓を見上げる。
ーー窓を開けるのは無理だ……。
これはどうみても、窓を開けるなと言われている。
……誰に言われているのか、分からないけれど。
「な、なんだっていうのよ……。私が何したのよ……?私は、そりゃあ人の家に無断で入ったのは良くないわ?良くないけど、元はといえば、そっちが物音立てるからでしょ?!そうよ……そっちが私を招き入れたようなものじゃない……!」
この理不尽な状況に、だんだん腹が立ってくる……。
「いいわ!そっちが出さない気なら、私だってやってやるわよ!」
抜けた腰に力を入れて、仁王立ちになる。
「絶対脱出してやるんだから!!」