お隣さん
腹が減っては戦はできぬ、と言い訳しいしいキッチンに向かった。
冷蔵庫の扉に手を掛けたものの、はたと考える。
ーーいつからブレーカー落ちてたのかしら……?
部屋中の電源が、あのブレーカーに繋がっているということは、冷蔵庫の電源も消えていたに違いない。
「傷んでるかな……」
冷蔵庫の中は諦めよう。電源の切れていた冷蔵庫の中なんて、恐ろしすぎる。
「水道水でいっか。えーと、コップはーーお?」
端にあった磨り硝子の食器棚は、両開きの扉の取っ手同士がビニール紐でグルングルンに巻かれていて開かなくなっている。手では解けそうにない。
「あ、ハサミあったっけ」
ハサミで端を切り、するすると取っ手から抜き取る。なかなかの長さの紐だ。
ーーん?紐?
「ああ!これでブレーカーを固定しちゃえば、電気がつくわ!」
急いで玄関に行き、ブレーカーを上げる。上げたまま、ビニール紐でグルングルンに固定した。
部屋には灯りがつき、携帯をライトにしなくても部屋を見渡せるーー
「ひゃぁぁぁぁああぁあ!!」
ふと見たダイニングに、ぼんやり透けた女の人が!!顔中血だらけで!!!
「な、な、ななな!なんで明るくなってから出てくるのよ!!ばかぁ!!!」
壁にピタリと張り付いて、目をきつく瞑る。とにかく合ってるか分からない念仏を闇雲に唱えてみた。
「悪霊退散!悪霊退散!くわばらくわばら!どっか行ってよ!!」
散々叫んでみたが、何も起きないし、何か起きる気配もない。
恐る恐る目を開けてみるとーー何も居ない……。
「ね、念仏が効いたのかしら……?」
とにかく、さっきの女の人は消えたらしい。ほっと胸を撫で下ろした。
「……喉渇いた」
叫びまくって喉を酷使した結果、さらに喉が渇いた。
さっき開くようにした食器棚に戻り、コップを探す。
「あ、このマグかわいい」
持ち手が数字の2を象った小さなマグだった。そのマグに水道水を注ぎ、一息に飲み干した。
「ぷはーっ!さて、明るくなったし、さっさと脱出手段を探さなきゃ」
ーーさっきの人がまた出ないうちに私が出なきゃ……。
改めて、部屋を見渡してみる。