−彼女
大学のために新潟から上京してきた燈太の現在の住処は、
1人で暮らす1LDKの小さい、築30年は軽く越すのではないかというほど古ぼけたアパートの一室である。
大学まで2駅、都心まで6駅の最寄り駅まで徒歩10分の場所に位置し、通学には何も文句はない。
しかし目の前には大きな高層マンション、しかも燈太が住むのはその中でも極北に設置されている。
雨の多い夏はキノコが生えそうな勢いで湿度が高く、冬は極寒という悪条件。
そのおかげと言っては語弊があるかもしれないが、家賃は破格の3万円。
親からの仕送りを格好つけて断ってしまった燈太としては、
例えどんなに悪条件でも飛び付いて即決即断してしまったのも当然と言えば当然だった。
いつ抜けてもおかしくない階段の板を一歩ずつ慎重に上がって行く。
ギシギシというか、バキバキというか、何とも言えない効果音を奏でながら、それでもこのアパートは未だ一度も床や階段が抜けたことはないという。
今日も安全に部屋まで到着できたと一安心しながら、ジーパンのポケットから鍵を取り出す。
鍵穴に差し込むと、ぐっと微妙な加減で力を込めながらドアへと体重をかけていき、
一定の所までいった瞬間を見計らい素早く手首を捻った。
このボロボロアパートの鍵を開けるコツを掴むのに半年は有した燈太ではあったが、今では何でもないことのようにやってのける。
ガチャリと鍵の開いた音を聞きながら、人間の適応力を改めて感じされられた燈太だった。