じぇねれーしょん


空になったグラスとそれを示す掌を見て、七緒はちょっと考えた末、口を開いた。


「メードトゥオーダー。私のイメージで何か一つ造ってもらおうかしら。」


せっかく単お勧めのカワイ子ちゃんがオーダーを取りに来てくれたのだ。


これで帰るのは勿体ない。


そのくせ、自分にはない少女の素直さやハキハキした明るさをやっかんで少々意地悪なオーダーを出してみる。


それが挑発と知ってバーテン少女はオーバーリアクションでおどけて見せた。


「ええ~。お客様のイメージって言っても何も知らない分、分が悪いなぁ。来店初めてですよね?」


「ええ。今夜は、さっきまで一緒にいたツレに誘われて来てみたんだけど……」


来客の顔を全て覚えているのだろうかと訝しがると、少女はあっさりと種明かしする。


「この店でスーツのカップルって珍しいから。あ、スーツが珍しいんじゃなくて。スーツなら会社帰りに数人の同僚でワイワイってノリで。」


なるほどね、と頷く。


「お名前お聞きしてもよろしいですかぁ?」


「和原七緒よ。」


その質問が世界で一つのカクテルを造るためのソースだと分かっていたので素直に答える。


その後も、趣味やら好きなものやら問われるままに答えた。


そのあたりはカクテルのためというより、一人客を和まそうとするバーテンダーの気遣いのようでもある。



バーテンダーの名前はリカ。


世界一のバーテンダーを目指して修行中とのことだ。


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