暗黒ショートショート
あたしとあなた
あたしとあなた
あなたはあたしの父の再婚相手だった。
父よりも10歳も若いあなたは世間の人からは、市長をたぶらかした金目当てのメスブタだとひどく罵られていた。
それは当時小学校2年生だった私でも、あまり良くない言葉だという事は理解できていた。
あなたを知らない世間の人からすれば、他県から移り住んだあなたの存在は、酒の肴としてかっこうの話題だったに違いない。
しかし、一緒に暮らすことになったあたしは、あなたがそんな女ではない事はよくわかっていた。
市の仕事でいつも帰りは遅く、なかなか休みの取れない父にかわり、あなたはいつもあたしのそばにいてくれた。
誕生日にはケーキを手作りしてくれ、ずっとほしかったおもちゃをプレゼントしてくれる。
父が家にいる日には、いつも手の込んだ料理を惜しみ無くふるまってくれた。
だから、世間の人がどう言おうがあたしは耳をかさず、あなたの事は大好きになっていた。
時間がたつにつれ、世間からの罵声もいつの間にかなくなり、あなたはすっかりこの街の一員となっていた。
そんな時だ。
あたしの父が死んだのは。
普段から仕事仕事で、ろくに休めもせず、体を酷使していたのが原因。
過労死だった。
この街に貢献してきた父の死はメディアにも大きく取り上げられて、葬式にも沢山の人が参列してくれた。
あたしも、みんなも泣いていた。
あなた一人をのぞいては……。
あなたは父が死んだその日のうちに、あたしに重大な秘密を打ち明けてくれた。
「私が本当にほしいのは、あなたなのよ」
いつもと同じ口調でそう言うあなた。
あなたは父を愛していたのではなく、あたしを愛していたのだ。
まだ小学2年生だったあたしに恋熱を発病したあなたは、父に近づいた。
そして、今まで何食わぬ顔をして父の妻として過ごしていたのだ。
あたしは真実を知った瞬間、今まであなたがあたしにしてきた事を思い出した。
手作りの誕生日ケーキを食べたとき、あたしは何故だか強い眠気に襲われなかっただろうか。
翌日目覚めた時、体に多少の違和感を覚えなかっただろうか。
……どうして今まで気がつかなかったのだ。
あなたは幼いあたしをオモチャのように扱っていたのだ。
決して気づかれないように、一線は越えないようにしていた。
ただそれだけなのだ。
そう気づいた時、あなたの手があたしの服を強引に引っ張りボタンが飛んだ。
血走った両目があたしをとらえる。
もみくちゃになりながら必死であなたの手から逃れたあたしは、台所へと走った。
後ろから羽交い締めにされたあたしは、無我夢中で手に握りしめた包丁を振り回した……。
あたしは返り血を浴びてぬるぬるする手から、包丁を床へ落とした。
目の前には、まだ温かなあなたの体が横たわっている。
あたしはそっとその横にひざをつき、あなたの死に顔を見つめた。
「なんて綺麗なの!」
生きていた時には気がつかなかった美しいあなたがそこにいた。
その瞬間、ゾクゾクと背中をかけ上がる熱があたしを支配した。
あたしはあなたを愛してる……。
その熱には、この言葉が一番よく似合っていた。
あなたはあたしの父の再婚相手だった。
父よりも10歳も若いあなたは世間の人からは、市長をたぶらかした金目当てのメスブタだとひどく罵られていた。
それは当時小学校2年生だった私でも、あまり良くない言葉だという事は理解できていた。
あなたを知らない世間の人からすれば、他県から移り住んだあなたの存在は、酒の肴としてかっこうの話題だったに違いない。
しかし、一緒に暮らすことになったあたしは、あなたがそんな女ではない事はよくわかっていた。
市の仕事でいつも帰りは遅く、なかなか休みの取れない父にかわり、あなたはいつもあたしのそばにいてくれた。
誕生日にはケーキを手作りしてくれ、ずっとほしかったおもちゃをプレゼントしてくれる。
父が家にいる日には、いつも手の込んだ料理を惜しみ無くふるまってくれた。
だから、世間の人がどう言おうがあたしは耳をかさず、あなたの事は大好きになっていた。
時間がたつにつれ、世間からの罵声もいつの間にかなくなり、あなたはすっかりこの街の一員となっていた。
そんな時だ。
あたしの父が死んだのは。
普段から仕事仕事で、ろくに休めもせず、体を酷使していたのが原因。
過労死だった。
この街に貢献してきた父の死はメディアにも大きく取り上げられて、葬式にも沢山の人が参列してくれた。
あたしも、みんなも泣いていた。
あなた一人をのぞいては……。
あなたは父が死んだその日のうちに、あたしに重大な秘密を打ち明けてくれた。
「私が本当にほしいのは、あなたなのよ」
いつもと同じ口調でそう言うあなた。
あなたは父を愛していたのではなく、あたしを愛していたのだ。
まだ小学2年生だったあたしに恋熱を発病したあなたは、父に近づいた。
そして、今まで何食わぬ顔をして父の妻として過ごしていたのだ。
あたしは真実を知った瞬間、今まであなたがあたしにしてきた事を思い出した。
手作りの誕生日ケーキを食べたとき、あたしは何故だか強い眠気に襲われなかっただろうか。
翌日目覚めた時、体に多少の違和感を覚えなかっただろうか。
……どうして今まで気がつかなかったのだ。
あなたは幼いあたしをオモチャのように扱っていたのだ。
決して気づかれないように、一線は越えないようにしていた。
ただそれだけなのだ。
そう気づいた時、あなたの手があたしの服を強引に引っ張りボタンが飛んだ。
血走った両目があたしをとらえる。
もみくちゃになりながら必死であなたの手から逃れたあたしは、台所へと走った。
後ろから羽交い締めにされたあたしは、無我夢中で手に握りしめた包丁を振り回した……。
あたしは返り血を浴びてぬるぬるする手から、包丁を床へ落とした。
目の前には、まだ温かなあなたの体が横たわっている。
あたしはそっとその横にひざをつき、あなたの死に顔を見つめた。
「なんて綺麗なの!」
生きていた時には気がつかなかった美しいあなたがそこにいた。
その瞬間、ゾクゾクと背中をかけ上がる熱があたしを支配した。
あたしはあなたを愛してる……。
その熱には、この言葉が一番よく似合っていた。