その戸籍は現在存在していません
第1章
莉縁(リエン)、莉縁!
声が聞こえる。
それはどこか優しい、だが焦っているような頼りない声。
…自分の名前を呼ぶ親の声。
(お母さん…)
少女は手を伸ばす。母親の声がする方に必死に手を伸ばす。
(お母さん、助けて!)
だが少女の願いは届かない。
ここがどこだかも目に当てられている黒い布で全く分からない。
自分の部屋なのか、それとも屋敷にある地下室なのか。さっぱり検討が付かない。しかしちょっとした肌寒さとカビ臭さから地下室のような気もした。でも今はそんなことを考えている場合ではない。
少女……園崎莉縁は嘆いた。どうしてこんなことになったのだと。
自分はただ、いつものように生活していただけなのだ。いつものように学校に行って、友達と過ごして…
なのに、どうして。
「悪く思うなよ?園崎莉縁。僕たちは君の父親に存在を消されたんだ。全ての原因は彼にある」
突然聞こえた、男の声。若い……では済まない。下手をしたら莉縁と同い年ぐらいの声だ。
いつだって莉縁の味方でいた父親が原因?莉縁は耳を疑った。
(うそ)
口に当てられた布でモゴモゴと呟いていると「本当だよ」と、今度は大人の女性の声がした。
大人の女性、というわりには言葉はかなり片言だった。一体何者なのだろう。
「莉縁だっけ?君はね、ずっと騙されてきたんだよ。お父さんに」
その女性の声は淡々と莉縁に告げる。
「私もずっと寂しかった。一人ぼっちで、石も投げられて、悲しかった。人間として認めて貰えなかった。私はそれが許せなかった」
訳の分からないことを言われる。莉縁は黙ってその女性の声に聞き入るしかなかった。
「だからね、これは復讐なの。私の、ううん、わたし達の存在を消し去ったあなたのお父さんに、復讐をするの!」
(復讐…?)
そんなことして何になるというのだ。大体父は何をしたというのだ。
言いたいことは山ほどあるのにそれは口を塞いでいる邪魔な布のせいで涎と嗚咽のような呻きを零すだけだった。
しかし、それは何故か相手に伝わっていた。
「復讐すればね、私みたいな人がみんな救われるの。あなたのお父さんはね、悪い事をしたんだよ。だから復讐するの。人の存在を消すことは、悪い事。だから「喋りすぎだスカイ。その辺にしておけ」
女性の声を遮ったのは、先程の男の声。
もう何がなんだか分からなかった。
「とにかくここは一旦退くぞ。これで園崎は意のままに操れる」
莉縁は浮遊感を感じた。そして肩には手、足にも手。
これは俗に言うお姫様抱っことやらだ。莉縁は怖くなって縛られている両手首をぎゅっと握り合わせた。
(私、どこに連れてこられちゃうの…?)
不安感と一緒に沸く疑問。
もしかしたら殺されてしまうのかもしれない。
怖い拷問に遭うのかもしれない。
次々と沸き起こる恐怖。莉縁は知らず知らずのうちに目を覆っている布に水の染みを作っていた。
声が聞こえる。
それはどこか優しい、だが焦っているような頼りない声。
…自分の名前を呼ぶ親の声。
(お母さん…)
少女は手を伸ばす。母親の声がする方に必死に手を伸ばす。
(お母さん、助けて!)
だが少女の願いは届かない。
ここがどこだかも目に当てられている黒い布で全く分からない。
自分の部屋なのか、それとも屋敷にある地下室なのか。さっぱり検討が付かない。しかしちょっとした肌寒さとカビ臭さから地下室のような気もした。でも今はそんなことを考えている場合ではない。
少女……園崎莉縁は嘆いた。どうしてこんなことになったのだと。
自分はただ、いつものように生活していただけなのだ。いつものように学校に行って、友達と過ごして…
なのに、どうして。
「悪く思うなよ?園崎莉縁。僕たちは君の父親に存在を消されたんだ。全ての原因は彼にある」
突然聞こえた、男の声。若い……では済まない。下手をしたら莉縁と同い年ぐらいの声だ。
いつだって莉縁の味方でいた父親が原因?莉縁は耳を疑った。
(うそ)
口に当てられた布でモゴモゴと呟いていると「本当だよ」と、今度は大人の女性の声がした。
大人の女性、というわりには言葉はかなり片言だった。一体何者なのだろう。
「莉縁だっけ?君はね、ずっと騙されてきたんだよ。お父さんに」
その女性の声は淡々と莉縁に告げる。
「私もずっと寂しかった。一人ぼっちで、石も投げられて、悲しかった。人間として認めて貰えなかった。私はそれが許せなかった」
訳の分からないことを言われる。莉縁は黙ってその女性の声に聞き入るしかなかった。
「だからね、これは復讐なの。私の、ううん、わたし達の存在を消し去ったあなたのお父さんに、復讐をするの!」
(復讐…?)
そんなことして何になるというのだ。大体父は何をしたというのだ。
言いたいことは山ほどあるのにそれは口を塞いでいる邪魔な布のせいで涎と嗚咽のような呻きを零すだけだった。
しかし、それは何故か相手に伝わっていた。
「復讐すればね、私みたいな人がみんな救われるの。あなたのお父さんはね、悪い事をしたんだよ。だから復讐するの。人の存在を消すことは、悪い事。だから「喋りすぎだスカイ。その辺にしておけ」
女性の声を遮ったのは、先程の男の声。
もう何がなんだか分からなかった。
「とにかくここは一旦退くぞ。これで園崎は意のままに操れる」
莉縁は浮遊感を感じた。そして肩には手、足にも手。
これは俗に言うお姫様抱っことやらだ。莉縁は怖くなって縛られている両手首をぎゅっと握り合わせた。
(私、どこに連れてこられちゃうの…?)
不安感と一緒に沸く疑問。
もしかしたら殺されてしまうのかもしれない。
怖い拷問に遭うのかもしれない。
次々と沸き起こる恐怖。莉縁は知らず知らずのうちに目を覆っている布に水の染みを作っていた。