世界は私達に優しくない
 
どれ位の時間が経っただろうか、もしかしたら五分も経っていないのかもしれない。

ピチャピチャと、音を鳴らしながら手の平を舐めて居た凌空の様子が突然変わった。

血など既に出ていないというのに、それでも足りないと言う様に傷口を抉り血を舐め様としていた凌空の黒髪が、徐々に茶色に戻って来る。

頭のてっぺんからだんだんと毛先に向かって茶色に戻り始める頃には、伏せられて居た瞳も黒く戻り、舐める度に手の平に当たって居た牙も姿を消していた。

そして姿が完全に戻った時、ピタリと手の平を舐める凌空の舌が動きを止め、勢いよく上げられた顔には驚きが浮かんでおり、見開かれた瞳には目に涙を溜めている由希が映り込んでいた。


「お、れ…」

「初めての血の味はどう? 美味しかったあ?」


力強く掴んでいた由希の手を離し、凌空は何が起きたのか分からないと混乱している。背後から、また囁く様に言うリズシアの言葉にハッとし、凌空は手で口を覆う。

由希はその場に座り込んだまま、先程まで凌空が舐めて居た手の平を見下ろす。


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