世界は私達に優しくない
 
(血を飲んだら大丈夫なんじゃなかったの?)


リズシアの言葉に、由希は信じられず固まってしまう。それは凌空も同様で、口に当てて居た手があまりの事に滑り落ちていた。


「言うの忘れてたんだけどさー、ただ血を飲めば良いってもんじゃないんだよね~。ぶっちゃけさ、量が足りないんだよ」

「りょ、う?」


眉を寄せリズシアを睨む様に、視線を左に向ける凌空。それにそうそうと頷くリズシアの顔は、楽しそうであった。


「人間がヴァンパイアになる為には、まー大体二十㏄から四十㏄位の血を飲まなきゃいけない。だけどさっきのじゃ、到底足りないね」

「そ、んなの…アンタ言ってなかったじゃねーかよ!!」

「あー、ごめん。すっかり忘れてたんだよね~。それにまさか手の平の血を舐めるなんて思わなかったし? 首から飲んだら量なんて軽く越えるからさ! ごめんごめんっ」


苦い顔で唇を噛み締める凌空に、到底悪いと思って居る様子が見えないリズシアが笑いながら何度も謝る。しかしそんなリズシアに、凌空は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべて居た。


「大丈夫大丈夫! 心配する事ないからっ。ただ…今度はもっと血を飲めばいいんだからさ――?」


何処までも楽しそうに囁くリズシアの言葉に、凌空も由希も絶望を感じたのだった…。


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