世界は私達に優しくない
「ただいま~」
「おかえりー。もうなーに? その気の抜ける様な声っ」
「うう"〜…」
のそのそとリビングに入って来た由希の姿に、食器を棚に入れながら全くと由希の母親は呆れる。
これ以上何か言われても敵わないと、俯き加減のまま部屋へと続く階段を上った。
部屋へと入れば室内は朝のまま、パジャマとベッドがぐちゃぐちゃの状態で放置されて有り、床に落ちて居るパジャマを拾いつつ鞄を机の上に置き、パジャマを畳んでテーブルの横に置いて乱れたままのベッドに倒れ込んだ。
制服のままだった事に気付いたが、別にいいかと開き直りそのままゴロリと仰向けになって天井を見上げる。
昔はもっと綺麗なクリーム色だった筈の壁紙も、由希が大きくなるにつれどんどんくすんだ色になって居た。
汚くなって来たと言えばきっと張り替える事も可能だろうが、この部屋や壁紙と一緒に自分も大きくなって来たと思ったら、どうしても壁紙を変える事が出来ずに居たのだ。
そっと天井に向かって手を伸ばす。
この壁紙が汚れて行ったのと同じ様に、由希も凌空も大きくなり、ついこの間まで、ずっと一緒にこの天井を眺めて居ると思っていた。