体育館12:25~私のみる景色~

 佐伯先輩は今、どんな表情を浮かべているんだろう。


 無表情かな、それとも声と同じ切ない顔?


 それとも、さっきみたいな冷たい目をしているのかな……。


 意を決して顔をあげ、佐伯先輩の方を振り返った。


 このまま無視しちゃいけない気がしたから。


 こんな顔を見られるのはイヤだけど、このまま佐伯先輩と関わりが何もなくなっちゃうんじゃないかって思ったら、そっちの方が何十倍もイヤだって感じたから。


「……っ、宮下さん」


 そう声をこぼした佐伯先輩は、私が想像していた顔とは違う表情をしていた。


 驚いたような、焦っているような、だけどどこか苦しそうな顔だった。


 なんでそんな顔をしてるのかはわからない。


 なんで呼び止められたのかもわからない。


 いつもいつも、佐伯先輩のことは何ひとつわからないんだ。


 何か言わなきゃいけないはずなのに、何を言ったらいいのかわからない。


 声の出し方すら忘れたみたいに、私の喉から聞こえるのはただ空気の音だけ。


 
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