体育館12:25~私のみる景色~
伸ばした腕に顔を埋めて、佐伯先輩はぴくりとも動かない。
どうしちゃったのかなあ。
そういえばこれは、前にも見たことのある光景だ。
あの時こんな状態になってたのは、慶ちゃん先輩だったけど。
佐伯先輩に近付いて、様子をうかがおうとしたら佐伯先輩は顔を上げてゆらりと立ち上がった。
私たちの距離は、30センチくらい。
思ったよりも近くて、大好きな香りが私を包んで、まるで佐伯先輩に抱き締められているような錯覚におちいる。
「宮下さん、泣いた?」
じっと佐伯先輩を見上げていると、くしゃりとつらそうに顔を歪めた先輩がそっと私の目尻に触れた。
そうだ、顔隠すの忘れてた。
見られたくなかったのになあ。
「あは、泣いてなんかないですよ……」
泣いた、なんてバレバレでも言いたくはない。
そんな泣き虫だって思われたくないもんね。