体育館12:25~私のみる景色~

 ごほんとひとつ咳払いをした先輩が、さっきよりも距離を詰めてくる。


 無表情ともとれる真面目な顔で、がしっと両肩を掴まれた。


 な、なにごとっ!


 吐息が触れる近さに身体が震える。


 肩に感じる重さに意識が集中する。


「あのさ。単刀直入に聞くけど、宮下さんは、誰が好きなの?」


 この時私はたぶんすごくマヌケな顔をしていたと思う。


 だって、だって!


 こんなことを聞かれるなんて思ってなかった。


「え、っと。それは、そのですね……」


「誰なの。慶? それともほかのヤツ?」


「だっ、だから……っ」


「あー、順番違うな。バスケを見に来てるの? それとも、誰かを、見てるの?」


 一言ずつ確かめるように言うから、からかったりおもしろ半分で聞いているわけじゃないんだと思う。


 だいたい佐伯先輩は、そういうことをしなさそう。


 私の勝手な想像だけど。


 顔色ひとつ変えずに私に確かめるように聞く先輩は、やっぱり大真面目なんだろう。


 けれど、この距離でそんなことを聞かれたら恥ずかしいし、そもそも好きな人って佐伯先輩だし、見てるのだって佐伯先輩だけだよ。


 
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