体育館12:25~私のみる景色~

 でもね、わかっちゃったんだ。


 佐伯先輩は、この質問には答えないって。


 なんとなくだけど、わかったんだ。


「はは、その質問には答えられないかな」


 私の肩から手をおろして、佐伯先輩は力なさげにそう言った。


 ほらね、やっぱり。


 佐伯先輩は、この質問には答えない。


「それなら私も、さっきの質問には答えませんよ?」


 精一杯明るくおちゃらけて言ってみたけれど、これは結構キツいね?


 だって、わかっちゃったんだもん。


 佐伯先輩には、好きな人がいるんだってこと。


 胸がじくじく痛むけど、笑うしかないんだ。


 自分で招いたことなのに、覚悟していたつもりだったのに、いざ核心に触れてみたら、大火傷。


 なんで聞いちゃったんだろうなあって、後悔が押し寄せてくる。


 質問に何か答えてくれなくても、表情でわかっちゃったよ?


 好きな人のことになると、あんなふうに表情を崩すんだね。


 もし好きな人がいないなら、私が聞いても何も反応を示さないはずだもん。


 あれだけ様子が変わったら、誰でも気付いちゃうよね。


 あーあ、告白する前に失恋かぁ。


 まだ諦めるには時間がかかりそうだけれど。


< 352 / 549 >

この作品をシェア

pagetop