体育館12:25~私のみる景色~

 好きな人がいるなら、優しくしないでよ。


 こんなふうに私にどうでもいいこと聞かないで、期待させるようなことしないでよ。


 ……そう、心のどこかで期待してた、自惚れてた。


 アドレスを知っているのも、普段のポーカーフェイスな顔が変化するのを見れるのも、私だけだって勘違いしてた。


 思い上がりだったんだよね。


 あれだよ、彼女気取りっていうのかな。


 よく考えてみれば、私の行動って自信過剰だ。


 あんな質問も、よく考えたらバカな話だよ。


 たしかにあれは賭けだったけれど、自分に少しは自信がなきゃ聞けないことだ。


 だって、佐伯先輩が噂の通りだったら、即答だったはずなんだよ。


 表情も変えずに、答えられないって言うはずだったの。


 だけど、予想と違って佐伯先輩は、顔色を変えたんだもん。


 ねえ、期待しちゃうのは当たり前だよ?


 学校の王子様なんて言われてる先輩とこんなふうに話して、アドレスまで知ってて、おまけに女の子には冷たいなんて言われている人が私に優しく接してくれているんだから。


 私のことを少しは特別に思っているんじゃないかって、そう思っちゃってたんだよ。


 もしもの可能性だって考えた。


 もし、佐伯先輩の好きな人が私だったらって。


 だけど、そんなのはすぐに砕け散ったよ。


 だって、ありえない。


 なんの取り柄もない私なんかを、佐伯先輩が好きになるはずないから。


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