体育館12:25~私のみる景色~

 私の心の中はぐちゃぐちゃだ。


 いろんな考えがせめぎ合ってまとまらない。


 抱き締められて嬉しいけれど、複雑な気分……。


 私はその腕の中で、ただ固まっていることしかできない。


「……宮下さん。俺はさ、嘘つきなんだよ。これから言うことを信じるか信じないかは、宮下さんが決めていいから」


 くぐもった声が聞こえるけど、心臓は尋常じゃないくらい速く動いていて、正直佐伯先輩の言葉を冷静に考えられない。


 だけど、一言一句聞きもらさないよう、耳に神経を集中させた。


「俺は、髪の毛は長い方が好きだよ」


「え?」


「それから、ずっと好きな人がいる」


「……っ!」


「あと俺、実は前の慶以上に軽い男だから」


 なんなの、これ。


 佐伯先輩は、何を言ってるの?


「だから、誰にでも今みたいなことできるんだよ」


 佐伯先輩はそう言った後、私を解放して鍵を開け、先に出るように促した。


「俺は宮下さんが出た後、教室戻るから」


 ねえ、わからないよ。


 佐伯先輩は自分を嘘つきだって言った。


 だけど、どれが嘘でどれが本当なのか私にはわからない。


 どれを信じていいのかわからない。


 でも、嘘だったとしても、本当だったとしても“ずっと好きな人がいる”の言葉は相当堪えた。


 まるで鉛みたいに、胸が重い。


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