体育館12:25~私のみる景色~
「帰り、遅くなってごめんな」
「あ、大丈夫です……」
泣き続けた私たちが佐伯先輩の家を出たのは、19時半だった。
街灯も少なく真っ暗な駅までの道のりを、先輩と2人でゆっくりと歩く。
吐いた息が真っ白に染まり、それが空中に溶けて消えていく。
さっきまでのことが嘘だったかのように、私たちの間には穏やかな空気が漂っていた。
沈黙の時間が続くけど、それを気まずいとは思わない。
むしろ、なんだか落ち着いた。
しばらく歩き、駅まであと数十メートルってところで、それまで黙っていた佐伯先輩が唐突に話し始めた。
「……俺さ、女子に冷たいとかって言われてるんだろ?」
「……はい?」
いきなりすぎて、何を言いたいのかよくわからない。
佐伯先輩に耳を傾けた。
「なんていうかさ、女の扱い方がわからないんだよな。つーか、女に少し抵抗あるし。だから、こうやって宮下さんと普通に話せてるの、俺にとっては結構すごいことなの」
佐伯先輩は「わかる?」と首を傾げて私の顔を覗き込んだ。
それってつまり、どういうことなんだろう?
佐伯先輩が女の人の扱いをわからない、女の人を怖いって思うのは、きっとお母さんのこととおばさんのことが関係しているんだろうけど。
私と普通に話せるってことは、女の人に対する抵抗が薄れたってこと?
うーん、先輩は何が言いたいんだろう?
考える私に「やっぱわからないか」なんて笑う先輩に、私はさらに頭を悩ませた。