体育館12:25~私のみる景色~

 駅に着き、佐伯先輩は私を自宅まで送ってくれると言ったけど、時間も遅いし家から走ってすぐだからと断った。


 佐伯先輩は心配そうな、それでいて不満そうな顔でムッとしていたけど、しぶしぶ納得してくれて駅で別れた。


 すぐにホームに滑り込んできた電車に乗り、今日のことを思い返す。


 午前中、いつも通りに学校で授業を受けて。


 放課後は凉とショッピングに行って、そこで佐伯先輩の姿を見かけて。


 ……それから、佐伯先輩について、いろいろなことを知った。


 佐伯先輩の苦しみ、悲しみ。


 そして、強さ。


 今日知ったことは、ずっと忘れられないと思う。


 たくさん泣いたけど、そのあとの佐伯先輩はすっきりしたような顔をしていたから、私も少しだけ安心した。


 強そうに見えて実は脆い部分もある佐伯先輩。


 近くで支えてあげられたらいいのにと思う。


 その時、ポケットの中でケータイが震えて取り出してみると、『今日はありがとう。家に着いたら連絡して』という内容の、佐伯先輩からのメール。


 思いがけないメールに心がポカポカと温かくなった。


「やっぱり、大好き……」


 佐伯先輩は優しい人だ。


 今まで苦しい思いをした分、幸せになってもらいたい。


 その時、私は佐伯先輩の傍にいられるんだろうか。


 それとも、別の誰かが今日の私みたいに、佐伯先輩に寄り添うのだろうか。


 複雑な気分になりながらもケータイを抱きしめて、佐伯先輩が幸せになれることをただひたすらに祈った。


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