体育館12:25~私のみる景色~
「じゃあ、頑張ってね? 誰かが助けに来てくれるといいけど」
その言葉と微笑みを最後に、サエさんは扉をぴったりと閉めてしまった。
「ま、待って……!」
こんなところに放置されたら、寒くて死んじゃうよっ!
やっとのことで立ち上がってドアに近づいた瞬間、がたっと何かをはめ込む音がして、サエさんの足音も遠ざかって行った。
もう内側から扉を開けることはできないらしい。
何度扉を叩いてもびくともしない。
「誰か、いませんか……っ」
何度も何度も叫ぶけど、声は倉庫内に反響するだけで、外には届いていない気がする。
そもそもここは旧校舎。
生徒も先生も、誰もこんなところに来る用はない。
これ、本格的にまずいんじゃないかな……。
「そうだ、ケータイっ!」
ごそごそとポケットをあさるけど、お目当てのものは出てこない。
ああ、思い出した。
ジュース買いに行くだけだったから、教室に置いてきちゃったんだ。
なんでこういう時に限って、ケータイ持ち歩いていないんだろう……。
でも、今はお昼休みだし、お弁当食べてる途中だったし。
凉たちはきっと気づいてくれるはず。
これが少し前だったら完全にアウトだった。
数日前から佐伯先輩はお昼休みのバスケをしなくなって、凉たちとご飯を食べていたから。
気づいてもらえる望みがあるだけ、まだマシだよね。