体育館12:25~私のみる景色~
実は私が先輩を気になり始めたのは、バスケの試合を見たから、ではない。
去年の6月、1年生だった時。
ちょうど梅雨の時期で、雨がしとしと降っていた。
先生から雑用を頼まれて帰るのが遅くなったせいか、校舎には部活をしている生徒以外は残っていないみたいだった。
いざという時のために、教室の傘置き場に透明のビニール傘を置いてたけど、そこには1本も傘がなくて。
たぶん、傘を忘れた人が持っていたんだと思うけど。
しかたがないから走って駅まで帰ろうと玄関を出ようとした時、学校の前にある小さな噴水のそばに誰かが立っているのが見えた。
身長が高くて、髪が短い男の人だった。
傘もささずに雨に濡れているその人は、1年生の間で噂になっている佐伯先輩だと気づいた。
私の視力は2.0。
そして、私が気づいたのはもうひとつ。
……佐伯先輩は泣いているように見えた。