体育館12:25~私のみる景色~
相変わらず激しく鳴る心臓を押さえる私を見て、みーくんはためらいがちに言う。
「センパイは、亜希には知られたくなかったんじゃない? 本当のこと。そればっかりは俺にもわからないけどさ。それに……これは、いいか」
何かを言いかけたみーくんは、そのまま口を閉ざした。
嘘をついた理由も、佐伯先輩がお花の意味を知ってたのかも、本当のことは何もわからない。
だけど、今はそれでいいと思った。
気になるし、知りたいと思うけど。
でも、考えたって仕方のないことだから……。
「まあ、俺が言いたかったことってそれじゃなくて。いや、それもなんだけどさ。なんつーか、亜希には俺がいるし? あんまひとりで抱え込むなよってことをな、言いたかっただけ」
いつものみーくんらしくない、おどおどとした口調に不思議に思いつつ、私を思って言ってくれたことが伝わって、胸がほっこりと暖かくなった。
「ふふ、ありがとね。私、みーくんが幼なじみでよかったよ」
頭に浮かんだ言葉をそのまま言うと、みーくんは珍しく顔を少しだけピンク色に染めた。
「っじゃあ、俺もそろそろ帰るから。飯もろくに食べてないだろうし、ゆっくり休んでそのひどい見た目元に戻しておけよ?」
ぐしゃぐしゃと私の髪を乱して、みーくんは私の部屋を出て行った。
頭には手のぬくもりがほんのりと残っていて。
「……自分磨きしよ」
ぼさぼさの頭を触りながら、そんなことを思った。
「たいがい俺もヘタレだよ……」
ドアの向こうでしゃがみこんでいるみーくんの存在も、つぶやかれたその言葉も、私は知らない。